北九州市平和のまちミュージアム
  • 営業時間 9:30 ~ 18:00
    入館は 17:30 まで

    学芸員日記

    「〈灰色〉の日常」をより理解するために

    2023/08/04

    No.70 令和5(2023)年8月4日


     今月より、新企画展「〈灰色〉の日常 ―戦争を支えた人びとの暮らし―」を開催しています。それに伴い、エントランス近くにあるラックにも、企画展に関連する書籍を並べました。合わせてご覧いただくと、理解が深まるかと思います。


    田河水泡『のらくろ』
     昭和6(1931)年、満州事変の年から、講談社の雑誌『少年倶楽部』にて連載がはじまりました。当時の立身出世主義、大陸渡航奨励などの風潮が反映されているものの、子ども向けであるため、作品全体は明るくユーモアにあふれています。
     子どもたちの間で熱狂的な人気を博し、戦前では異例の長期連載となりましたが、昭和16(1941)年に内務省から「戦時中に漫画を連載するのは不謹慎」との通達が入り、やむなく連載が打ち切られました。


    こうの史代『この世界の片隅に』
     平成28(2016)年に片渕須直監督により映画化され、大ヒットとなった作品の原作です。戦中の広島県の軍都・呉を舞台に、主人公・すずさんを中心とした家族の日常が描かれています。
     昭和20(1945)年6月22日、呉海軍工廠を狙った空襲によって一緒にいた義姪を亡くし、自身も利き手を失ったすずさんが、「人の死が日常となったこの世界に順応しつつある自分こそが歪んでいる」と独白する場面からは、非日常が日常となった世界の「空気」がひしひしと感じられます。


    おざわゆき『あとかたの街』
     戦争末期、昭和19(1944)年の愛知県名古屋市。当時12歳だった著者の母親の戦争体験を描いた作品です。女性車掌への憧れ、日々の献立への楽しみなど何気ない日常を過ごす主人公。「自分が戦争に参加しているなんて気持ちは、これっぽっちもなかった―。」と回顧しています。
     しかし、学校で始まる畑仕事や軍事教練、戦争ごっこで遊ぶ近所の子どもたち、家に押しかけ国債を買うよう迫る婦人会の人たちなど、そこにはたしかに「戦争」があったのです。


    西日本新聞社編『戦争とおはぎとグリンピース』
     昭和29(1954)年からはじまった西日本新聞の女性投稿欄「紅皿」に寄せられた投稿のうち、戦争に関連する42編を収録しています。現在の私たちにとって、戦争は「非日常」を思い浮かべますが、彼女たちにとってそれは紛れもなく、普通の「日常」であったことをうかがわせます。
     ひとつひとつのお話は短いながらも、筆者それぞれの思いが凝縮されています。また、食べ物や生活道具など身近なものが題材となっており、「リアル」な情景が浮かび上がってきます。


    重信幸彦『みんなで戦争 銃後美談と動員のフォークフロア』
     「銃後の『美談』は、戦意高揚のプロパガンダであり、人びとの本音は違っていたという考えは、現在の私たちの願望の投影でしかないのかもしれない」という見方から、本書では、当時の日常的な人間関係の実態を示す一つの記録として「美談」を捉え、そこから読み取れる時代背景や人びとの意識、暮らしぶりなどを分析しています。
     現代も昔も変わらず、人は「空気」に流されやすい―。そんなことを感じつつ、立ち止まってものの見方を考えさせられる一冊です。


    小泉和子監修『戦時下のくらし』
     戦時下の市民の暮らしを、豊富な写真や資料等で解説したビジュアルブック。実は、この本の中に、企画展で展示している資料と同じものが掲載されているページがあります。探してみてくださいね。


    福岡県教育委員会『福岡県の戦争遺跡 福岡県文化財調査報告書 第274集』
     今回の企画展では、夏休みの自由研究のヒントにつながるパネルも置いています。地元に残る戦跡や記念碑等に足を運んで、その歴史を調べてみてはいかがでしょうか。


     ほかにも、平和のまちミュージアムの本棚には、戦争や平和に関連する書籍がたくさんあります。館内閲覧のみとさせていただき、貸出等は行っていませんので、ご来館の際にぜひご覧ください。

    (学芸員M)

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