番外編13「戦争や平和に触れる契機 SNSが紡ぐ個人史」
連載コラム『想い つなぐ』
★西日本新聞 北九州・京築版 2024年12月5日(木)朝刊16面掲載★
先日、「戦争や平和に関することをSNSで気軽に発信するのは気が引ける」という相談を受けた。どうやら“重い”歴史を“軽い”メディアで扱うことに抵抗があるようだ。
2020年にNHK広島放送局が、ツイッター(現X)上で「1945ひろしまタイムライン」という企画を行った。「もし75年前にSNSがあったら」というコンセプトで、実在した3人の被爆者の日記などをもとに、当時の市民の暮らしや感情の動きを日々投稿していた。
新聞記者の32歳男性、26歳の妊婦、中学1年生の少年それぞれの素朴な言葉から、そこに現在と変わらない日常があったのだということを気づかせてくれる。
原爆投下の8月6日近くにはフォロワー数が急増し、三つのアカウントの合計で、約40万人ものフォロワーを集めた。私もそのうちの1人であったが、これを原爆報道に携わったことのない、当時20代前半の若手が企画したということに驚いた。
このような事例は海外でもみられる。イスラエルのユダヤ人親子が自主制作したインスタグラムのアカウント「Eva. stories」がある。ホロコーストの犠牲となった13歳の少女が書いた、アウシュビッツに移送される3日前までの日記をもとに、動画が作成された。
等身大の女の子が歌ったり踊ったりする姿は、現在と何ら変わらない。そんな日常がナチスの台頭により徐々に変わっていき、涙ながらに不安や恐怖を語る彼女の姿が記録されている。
このアカウントは、ネタニヤフ首相がフォローを呼び掛けたり、ホワイトハウスの公式アカウントが拡散したりして注目を集め、100万人を超えるフォロワーがいる。
これらの取り組みは、「被爆者」や「ホロコースト犠牲者」という大枠に埋没させない個人史を描き出したともいえる。また、リアルタイムで目の前に流れてくる投稿を追うことで当時を追体験している感覚になる。それを歴史的資料が支えることでリアリティーが生まれ、多くの人の共感を呼んだのだろう。
確かに、SNSゆえの危うさは否定できない。しかし、時勢に合ったメディアを用い、多くの人が戦争や平和に触れる契機をつくることは、今後ますます必要とされるだろう。
