北九州市平和のまちミュージアム
  • 営業時間 9:30 ~ 18:00
    入館は 17:30 まで

    学芸員日記

    番外編2「史資料を読み解く力養う」

    2023/09/29

    連載コラム『想い つなぐ』

    ★西日本新聞 北九州・京築版 2023年7月21日(金)朝刊 18面掲載★

     平和のまちミュージアムは、博物館展示に関する学術研究団体「日本展示学会」が選考する第7回日本展示学会賞を受賞した。戦争・平和をテーマとする博物館では、第6回受賞の広島平和記念資料館に次ぐ2例目となった。
     テーマ設定や構成、映像・音響技術の使用に優れ、「単に戦争被害を記憶する施設にとどまらない奥行き」のある展示であり、「『戦争を知らない世代』にも戦争の悲惨さや平和の大切さを伝えることに成功している」との評価をいただいた。
     現在、ミュージアムで働く人の中に戦争を経験した人はいない。私自身も、平成生まれの戦争を知らない世代である。いわば、戦争を知らない世代による戦争を知らない世代への記憶の引き継ぎが、ミュージアムという「場」で実践されているのである。
     昨今の平和学習では、しばしば「戦争はいけない」「平和が大切」といった結論が、リアリティーを欠いた中でいささか早急に導きだされることが多いように思う。
     そもそも、戦争は遠い過去の出来事、もしくは遠い国で起きている出来事であり、自分とは関係のないことと捉えがちである。そこにリアリティーは感じられない。
     一方、平和のまちミュージアムがある小倉は、長崎に投下された原子爆弾の第1目標地であった。北九州・小倉には、「もし原爆が落ちていたら、自分は生まれていなかった」という「もしも」の現実がある。こうしたありえた歴史を意識することで、戦争を歴史の表層としてだけでなく、自分に関わることとして捉えることができるのではないだろうか。
     はじめから結論ありきではなく、与えられた史資料や伝承から自らにとってリアルな価値を生み出す「意味の生産過程」を読み解く力(リテラシー)を育てていく。戦争体験や記憶の向こう側に、どのような社会をつくっていくべきか、考えてみてほしい。事実をどのように解釈するのかは、まさに未来の形成に関わる重要なことである。
     戦争や平和のリアルをつかむ「場」、そして、リテラシーを磨く「場」として、ミュージアムを大いに活用してほしいと願っている。

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