北九州市平和のまちミュージアム
  • 営業時間 9:30 ~ 18:00
    入館は 17:30 まで

    学芸員日記

    番外編9 「生きた証し 引き継ぐ家族 少年飛行兵の遺書」

    2024/06/21

    連載コラム『想い つなぐ』

    ★西日本新聞 北九州・京築版 2024年5月16日(木)朝刊16面掲載★

     平和のまちミュージアムで開催中の企画展「戦場からのことば」(7月15日まで)では、北九州出身で特攻隊員だった木原愛夫ちかおさん、中村正直さんの遺書、遺品を展示している。
     2人は、ともに陸軍少年飛行兵の出身である。少年飛行兵とは、満15~19歳の少年たちを志願により採用し、高い技能を要する航空要員へと育成するための制度であった。終戦直前に採用された第20期まで、約4万5千人の少年飛行兵が採用され、飛行機乗りとしての訓練を受けた。
     特筆すべきは、生還を前提としない「決死」の作戦である特攻作戦に、非常に多くの少年飛行兵出身者が参加し、命を落としたことだ。陸軍の航空特攻戦死者約1400人のうち約400人を彼らが占めている。
     その中には、まだ20歳にも満たない若者たちも多くいた。前述の木原さんや中村さんも、特攻戦死時には19歳だった。
     若い特攻隊員たちの多くは、妻や子がいなかった。したがって、彼らが書き残した手紙や遺書は、自然と親宛てのものが多くなる。
     自らの「死」を受け入れようとしつつも、残された親や兄弟を心配する気持ちが資料から読み取れ、戦争によって引き裂かれた家族のあり様を私たちに伝えてくれる。企画展に訪れた方には、戦争の時代を生きた若者たちの心中に想いをはせてほしい。
     ところで、戦死者の遺書や遺品は、残された家族により保存されてきた。木原さんの場合は兄、中村さんの場合は姉が受け継ぎ、いずれも特攻で亡くなった弟の生きた証を後世に残そうとしたのである。
     木原さんの資料はその後、万世特攻平和祈念館(鹿児島県南さつま市)と知覧特攻平和会館(同県南九州市)へと寄贈され、そのうち知覧特攻平和会館所蔵分のレプリカを、今回の企画展で展示している。
     中村さんの資料は、神社に慰霊碑を建立するほど強い想いを持っていた姉の遺志を受け継ぐご遺族から、企画展の開催に当たりお借りしたものだ。
     ご来館の際はぜひ、資料を受け継ぎ、大切に保管してきた家族の想いも想像しながら、企画展を見ていただきたいと思う。

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