番外編19 「他者の記憶を『カタチ』に 想像力」
連載コラム『想い つなぐ』
★西日本新聞 北九州・京築版 2025年8月21日(木)朝刊14面掲載★
小学生の頃から、戦争や平和について興味があり、当時、体験者の話を聞く機会があると迷わず参加していた。でも私は、その人たちの体験はおろか、名前も顔も、今はほとんど覚えていない。
今夏、平和のまちミュージアムでは、アート作品の展示という、歴史系博物館としてはやや挑戦的な企画を試みた。作品そのものよりも、制作過程に焦点を当てた点が、従来の美術館での展示と異なる。戦争体験の記憶という目に見えないものをカタチにしていく。そのプロセスにこそ、「継承」を考えるヒントがあると考えたからだ。
今回展示している作品は、体験者との対話を経て制作された。出展アーティストの方々は、それぞれの作品で単に「戦争の悲惨さ」や「平和の大切さ」を表現しようとしているのではない。自らが交流した人物の体験や記憶、そこから導き出された双方の思いなど、固有の記憶を伝えようとしているのだ。
私は、それらの記憶の基となったすべての体験者と、直接言葉を交わしたわけではない。しかし、作品との“対話”を通して、幼い頃に体験者講話のイベントで聞いた話よりも身近なものに感じている。
今回の企画展は、比較的若い方による作品が多い。しかしそれは、彼らが頑張っている姿を見てほしいわけではない。作品を通して、自分にも何かできることがあるかもしれないと、来館者が考えるきっかけにしてほしいと思っている。
先日、恐らく私と同年代と思われる来館者を案内した際、「自分の感じたことを素直に話していいのだと安心した」と、うれしい言葉をいただいた。戦争や平和について話題にするハードルはどんどん下げていきたい。今回の企画展も、紋切り型の答えにとらわれず、自身の想像力を働かせて作品と対峙してほしい。そして、そこから生まれた言葉や感情を育てていってほしい。
企画展「記憶の表象(カタチ)―継承とは何か、を問う―」は、10月13日まで開催している。他者の記憶を多様なイメージで彩った作品たちが、次の対話者であるあなたを待っている。
