北九州市平和のまちミュージアム
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    学芸員日記

    番外編20 「制作後も深まるつながり 原爆の絵」

    2025/10/24

    連載コラム『想い つなぐ』

    ★西日本新聞 北九州・京築版 2025年9月18日(木)朝刊18面掲載★

     去る8月24日、開催中の企画展「記憶の表象(カタチ)―継承とは何か、を問う―」(10月13日まで)の関連イベントとして、原爆の絵を描いた広島市立基町高校の卒業生と九州産業大学の学生計4人をパネリストに招き、セッション「記憶をカタチにする」を開催した。
     原爆の絵は、作品そのものよりも、学生が証言者と向き合い、思いを受け止め、自分自身も変わっていくことに重きが置かれる。制作者の「ことば」を通して作品の本来の価値が発揮されるのだ。博物館で制作過程に焦点を当て原爆の絵を展示したのは、全国で初めての試みではないか。
     基町高の原爆の絵は、証言者と何度も確認し合い、炎ややけどなど証言者の記憶を忠実に描いた。九産大の作品は、証言者の記憶を学生の想像力で補い、きのこ雲のイメージなどを画面に再構成している。方法は異なるが、制作を通して彼女たちが得たものには共通項があった。
     制作に取り組むまでは、平和教育等で知識として戦争や原爆を捉えていた。しかし、彼女たちは証言者との交流を通して「一人の人間の経験として、それを受け取れた」と口をそろえた。交流した証言者や絵について語った「ことば」の豊かさにも驚かされた。作品を完成させた後も自身の活動を振り返って、考え、語ることで、むしろ証言者とのつながりが深まっているようだった。
     原爆の絵は、その制作過程はもちろん、描き上げた後も続く自省や「ことば」の彫琢も含めたすべてが大切であると、改めて気付く。セッションで学生の一人は「『継承』という言葉が後からついてきた」と打ち明けた。
     彼女たちは、はじめから被爆体験を継承しようと意識して絵を描いたのではない。一人の人間と向き合い、その生きざまや思いを理解しようとする実践を積み、それが結果的に継承活動となっていたのだ。
     当たり前のように見過ごされる「継承」という言葉だが、それは、知ろうとする姿勢、興味を持って関わろうとする思い、その一歩からはじまる。

    ※企画展「記憶の表象(カタチ)―継承とは何か、を問う―」は、2025年10月13日をもって終了しました。

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