番外編23 敵機爆音で音感を培う レコード
連載コラム『想い つなぐ』
★西日本新聞 北九州・京築版 2025年12月18日(木)朝刊16面掲載★
企画展「防空先進都市・北九州」(1月25日まで)では、「敵機爆音集」という戦時中の貴重なレコードの音声を、会場内で聞ける。
太平洋戦争の序盤、日本軍は米国の軍用機を複数奪い取った。「ろ獲機」と呼ばれたこうした敵側の軍用機は、調査研究や戦意高揚のために使用され、機体に日の丸が描かれて実際に飛行することもあった。その飛行音を収録し、解説を付したものが「敵機爆音集」である。
展示中の「敵機爆音集」第1集には、ボーイングB-17D爆撃機、ロッキード・ハドソンA-28爆撃機、カーチスP-40戦闘機、ブルースター・バッファロー戦闘機(英国軍)という4種の軍用機の、それぞれ1千メートル、3千メートル、5千メートルにおける飛行音が収録されている。
このレコードは、日蓄工業(現日本コロムビア)から1943(昭和18)年に発売された。同社が「耳による防空訓練用音盤」の企画を立てていたところ、千葉陸軍防空学校(千葉市)に飛行音の録音盤があるという情報を得て、軍の協力を得て制作された。レコードは特に「軍」と「官」に大好評を博し、1万2千組の注文が初日に殺到したという(玉川一郎「CM修業」、66年)。
飛行音に付属する解説では、爆音の特徴、類似の音階などが紹介されたうえで、その音色を記憶するよう求めている。そして、敵と味方の飛行機の爆音を聞き分け、敵機接近の場合は素早く防空のための行動を取ることが求められた。太平洋戦争下、「音感」は防空に貢献するために身につけるべき能力であった。
「鋭敏ナル聴覚」の育成が教育目標に組み込まれた国民学校では、爆音集が活用された。爆音集発売直後の新聞報道では、レコードから流れる飛行音を真剣に聞く子どもの姿が報じられている。
戦時体験の聞き取りをするなかで、子ども時代、B-29の爆音を聞き分けることが得意で、周囲から重宝されたという方のエピソードを聞いたことがある。戦時下の子どもの音感は、「爆音」によって培われたのである。
ご来館の際にはぜひ、戦時下の「音」に耳を澄ませてほしい。
