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    最新の学芸員日記

    検閲された軍事郵便

    2024/05/17

    No. 89 令和6(2024)年5月17日

     現在、開催中の企画展「戦場からのことば」では、戦地から送られた手紙(軍事郵便)をたくさん展示しています。その多くには、上の写真左下のように、「検閲済」と記された印が押されています。検閲とは、手紙の内容のチェックを受けることを言います。戦時中、戦地と故郷の間で交わされた手紙のほとんどが、検閲を受けていました。
     検閲の目的は、軍隊の規律の維持や、戦争の遂行に悪影響をもたらすことが、手紙に書いていないかチェックすることでした。具体的には、軍隊の行動などに関する機密事項、戦争を嫌がる感情や帰還要望、軍隊生活の批判などが、作戦の遂行や軍隊の士気の維持、銃後の国民の戦意維持に悪影響を及ぼすとされたのです。もしそういったことが手紙に書かれていた場合、文章の一部を墨で抹消されたり、手紙自体を没収されたり、最悪の場合処罰を受けました。そのため、兵士たちは手紙を書く際、常に検閲の存在を念頭に置く必要がありました(一方で、検閲を免れた手紙が一定数存在することも指摘されています)。
     次の手紙は、日中戦争期のもので、検閲の状況を伝えている貴重なものです(平和のまちミュージアム所蔵資料)。

     遠くへだたれて居つてはどうしても思ふやうには出来ず、又くわしい事は手紙に書く事も出来ません。他人から見られても差支へのないやうに書かねばなりませんので、思ふ事全部は書けませんから其の心算つもりで案じて下さい。こちらから出す手紙は皆か皆内地の方に行つて居るかどうか判りません。十月末頃迄に差出した手紙中より或る場所におい若干通じゃっかんつうを開けて検査の結果、悪い事が書いて居るとの事にて、山と積み上げた手紙を皆焼いてしまつたとの事です。その時には大分手紙も出すし、又写真も入れて居りましたが、どうも其の手紙は皆着いて居ないらしいのです。それが為、大事な品物は入れても着くかどうか知れないので、もうそんな事はせぬやうにして居ります。特に手紙の取締りは厳にして居りますので、秘密な事項、あるい混入こみいつた話は書けません。

     この資料に書いてあるような処置をされないよう、検閲に引っかかるような事項を避けて、兵士たちは手紙を書いたのです。
     その一方で、企画展をご覧いただくと、兵士から送られた軍事郵便は非常にバラエティ豊かであることも分かります。検閲は、手紙の表現の豊かさを奪う段階にまでは至っていなかったと私は考えています。

    (学芸員O)

    ※企画展開催に伴う特別講演会「戦場からのことば」の参加者を募集中です(詳細はこちら)。戦時下に交わされた手紙や、特攻隊員の遺書から、戦争の時代を生きた人たちの心情を探ります。ぜひご参加ください!

    【参考文献】
    財満幸恵「戦中の軍事郵便とその検閲について―日中戦争から終戦までを中心に―」(『昭和のくらし研究』8号、2010年)

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