谷川俊太郎さんとへいわとせんそう
No.102 令和6(2024)年11月22日
令和6(2024)年11月13日、詩人・谷川俊太郎さんが92歳で永眠されました。ご逝去を悼み、謹んでお悔やみ申し上げます。
私にとって印象深い谷川さんの作品は、2019年に出版された絵本『へいわとせんそう』(ブロンズ新社)です。書店で偶然目に入ったものですが、大人になって自ら絵本を手に取ったのは初めてのことでした。
たにかわしゅんたろう ぶん Noritake え
『へいわとせんそう』(ブロンズ新社、2019年)の書影
本作は左ページに「へいわ」、右ページに「せんそう」を、同じ人やものが平時と有事でどう変わるのか比較するように進んでいきます。モノクロで描かれたシンプルなイラストとことばで綴られている中、唯一、写真が使われているページがあります。それが、「せんそうのくも」です。それまでイメージで描いていた戦争が、一気にリアルとなって眼前に現れた衝撃がありました。そして、その後に「てき」と「みかた」の対比がつづきます。全く異なる平和と戦争の概念から、その違いが分からなくなる敵と味方に、戦争の本質を垣間見た気がしました。
谷川さんは本作に、「戦争が終わって平和になるんじゃない。平和な毎日に戦争が侵入してくるんだ。」ということばを寄せています。谷川さんは、昭和6(1931)年に東京で生まれ、昭和20(1945)年5月の山の手大空襲を体験された戦争体験者でいらっしゃいました。自らの経験に裏打ちされた思いに、いまは平和なのか、戦争が入り込んでいる日常に気づけるのだろうか、と改めて考えさせられました。
結論を先取りするのではなく、なぜ戦争はいけないのか、大人も立ち止まって想像できる絵本です。北九州市立図書館にも所蔵されていますので、ご自身でも、お子さまへの読み聞かせにも、ぜひ手に取ってみてください。
(学芸員M)