北九州市平和のまちミュージアム
  • 営業時間 9:30 ~ 18:00
    入館は 17:30 まで

    学芸員日記

    番外編6「思い出の品を『資料』へ 令和5年度収蔵品展」

    2024/02/20

    連載コラム『想い つなぐ』

    ★西日本新聞 北九州・京築版 2024年1月18日(木)朝刊20面掲載★

     学芸員として、「資料」を守る者でありたいと思う。
     平和のまちミュージアムには、手紙、日記、写真、生活道具などさまざまな品が持ち込まれる。その際、寄贈者からよく聞くのが「家にあってもどうしようもない。」「捨てようと思っていた。」といった話だ。
     今や、本来の持ち主が寄贈品を直接持ち込まれるケースはめったにない。持ち主の家族や縁者など、たまたまそれを発見したという方が、前述のような話をしつつ来館される。
     家族が遺した品の歴史的価値を知る人は少なく、年月の経過とともに、次第に忘れられてしまうのだろう。しかし、家ではただの「モノ」であった品々が、ミュージアムでは、その価値を見いだすことができるかもしれない。
     持ち込まれた品をいかに「資料」として意味付けし、展示するか。これは、学芸員の力量にかかっている。
     例えば1945年8月の「八幡大空襲」を述べるにしても、歴史的な事実を列挙するだけであれば、たった数行で終わってしまう。しかし、忘れられない、忘れてはならない、一人一人の膨大な記憶や体験がそこにはある。
     そうした記憶の断片を拾い集め、つなぎとめる。そのために、寄贈者の方からできる限りの情報を聞き取っていく。寄贈者の方とともにそのモノとの対話を通して、家族が遺した家族だけの思い出の品から、時代を物語る後世に残すべき「資料」として、生まれ変わらせるのだ。
     ミュージアムでは、4月7日まで、「あなたに語り継ぐ、北九州の思い出―令和5年度収蔵品展―」を開催している。
     本展では、新たに寄贈された資料を基に、戦前から戦後の時代を北九州で過ごした、それぞれの家族の「思い出」を紹介している。八幡大空襲で家族4人を失った少女や、軍隊に息子を送り出した母親、米軍小倉キャンプで働いていた学者に関する資料などに触れ、当時を生きた人びとの想いを感じてほしい。
     先人が遺した品を、込められた記憶や想いとともに、後世に残していく。それは、われわれミュージアム関係者に課された使命であり、私はその信念を貫いていきたい。

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