番外編14「対話が紡ぐ私たちの歴史 令和6年度収蔵品展」
連載コラム『想い つなぐ』
★西日本新聞 北九州・京築版 2025年2月6日(木)朝刊20面掲載★
文化資源は、一体誰のものだろうか。そもそも、それらは発見したときから、保存すべき、価値あるものと決められるのだろうか。
北九州市門司区を舞台に“小さな戦争”の記憶を描いた、長谷川未来先生の漫画「生きとし生ける」の中で、2人の主人公が、戦争の痕跡を求めて現在のJR八幡駅に降り立ち、「何もないじゃん!」と落胆するシーンがある。
1945年8月8日の八幡大空襲では、火災によって生じた煙が小伊藤山防空壕内に充満し、壕内にいた約300人の方が窒息死した。その場所は戦後、公園として整備され、犠牲者を悼む慰霊塔が建つのみである。
その風景から、当時を想像することは難しく、主人公たちと同じ感想を抱く方もいるだろう。しかし、そこに痕跡を見出し、記憶を重ねる人たちがあり、記憶が継がれ歴史が伝えられている。
遺物や遺跡は、現在の私たちの暮らしの中では見えにくく、家々の押入れの奥や、土中に眠っている。そして、それらが私たちの目の前に現れたからといって、すぐにその歴史や記憶を語りはじめるわけではない。
それらに意味付けをして何かを伝えようとする人々、それを受け取って何かを読み取ろうとする人々、そうした人々のあいだの対話を通じて、遺物や遺跡は、はじめて後世に語り継ぎ、遺すべきものとしてつくりあげられていくのだと思う。
われわれ専門家は、そうした対話の場の主役ではなく、一参加者に過ぎない。
ミュージアムでは4月6日まで、「まちとわたしたちの物語―令和6年度収蔵品展―」を開催している。本展では、八幡製鐡所のマークが捺された日の丸の寄せ書きや、関門北九州六市国防協会バッジなど、新たに寄贈された北九州ゆかりの資料を展示する。
これらの資料は、それまで大事に保存され、今後に活かしてほしいという人の想いが繋がれてきたものである。そして本展は、そうした人々と共につくりあげていった場ともいえる。
このような場に、ぜひ積極的に参加してほしいと切に願う。これは、「まちとわたしたちの物語」なのだから。
